米Microsoftは5月16日(現地時間)、障害のある人がXboxやWindows 10のゲームをプレイするためのコントローラ「Xbox Adaptive Controller」を発表した。年内に99.99ドルで発売する計画。

デスクトップPC用キーボードよりやや小さいサイズで、天面には黒い大きなボタンや十字ボタンなどが配置されている。

これらはすべてカスタマイズ可能だ。背面には19個のジャックが並び、そこにジョイスティックやボタンやスイッチを接続できる。

接続性とカスタマイズ性を重視した設計になっており、プレイヤーは自分のニーズに合わせて柔軟にカスタマイズできるという。ゲームの種類によって異なる設定を3つまで保存でき、それぞれを簡単に切り替えられる。

このコントローラは、2015年にMicrosoftの従業員が社内ハッカソンで発表したプロジェクトをきっかけに立ち上げられたプロジェクトの成果という。

「1社で成功を目指す時代は終わった。富士通は多くの素晴らしいパートナーに恵まれている」――富士通の田中達也社長は、富士通フォーラム2018(5月17~18日開催)の基調講演でこう話し、他社や外部機関と協力して製品やソリューションを生み出す方向性を強調した。

基調講演の冒頭で、同氏は、同社のサッカー部として創業した川崎フロンターレが2017年にJ1リーグで優勝したことを取り上げ、「人のつながりを革新の推進力とする」同社の姿勢を紹介。同社のデジタル技術を活用して人や企業をつなげる「つながるサービス」を提供し、その土台として、全世界規模で大学や企業と協力して研究開発を進めることで、専門領域に特化したサービスや製品を創出する考えを示した。

他社と協業して進める新たなソリューションとして、田中氏は壇上で2つの例を紹介した。1つ目は、Microsoftと協業して進める、働き方改革に向けた取り組みだ。2017年12月、富士通は、AI(人工知能)技術「Zinrai(ジンライ)」を「Microsoft Azure」のAIプラットフォームや「Office 365」と組み合わせて、新たな働き方改革向けソリューションを開発すると発表した。基調講演では、Microsoftのサティア・ナデラCEOから同社に向けた激励のビデオメッセージを公開し、2社の連携を強調した。

2つ目は、同社が5月15日に発表した「デジタルアニーラ」だ。同製品は、量子のふるまいをデジタル回路で再現し、コンピュータ内部で素子同士が自由に信号をやりとりできる仕組みを作ることで、「がんの放射線治療最適化」「創薬に向けた原子の組み合わせ」など、汎用コンピュータでは計算に膨大な時間がかかる「組み合わせ最適化問題」の解決に特化したサービスだ。

デジタルアニーラの例は、まさに田中氏が示した方向性を体現しているといえる。開発と製品化に当たっては、量子コンピュータ向けソフトウェアやミドルウェアを手掛けるカナダのベンチャー企業、1Qbitが協力し、トロント大学がプロトタイプ開発に関わった。同大学は2018年3月、富士通との共同研究室「Fujitsu Co-Creation Research Laboratory」を開設。デジタルアニーラを同大学の研究に幅広く活用するなど、協力体制を維持する考えだ。

基調講演の後半では、同社のグローバルマーケティンググループを率いる山田厳英氏が田中氏からマイクを引き継ぎ、同社の手のひら静脈認証システム「PalmSecure(パームセキュア)」を決済システムに導入した韓国のLOTTE Card(ロッテカード)や、IoTスマート歯ブラシ「G・U・M PLAY(ガム・プレイ)」と歯科医院向けクラウドサービスを連携させ、先進予防歯科サービスを展開するサンスターなど、複数の導入事例を紹介した。

情報端末の主役はパソコンからスマートフォンに移り、さらにはAI(人工知能)スピーカーが普及してきた。これにより巨大IT企業の覇権も揺れ動く。ニューズフロント・フェローの小久保重信氏とエコノミスト編集部の取材でリポートする。【週刊エコノミスト編集部】

◇スマホの「次」の主役は

AIスピーカーは、音声アシスタント機能を搭載したスピーカーだ。IT企業は今、AIと音声認識技術を組み合わせた音声アシスタント機能の研究開発にしのぎを削る。アマゾンは「アレクサ」、グーグルは「グーグルアシスタント」、マイクロソフトは「コルタナ」、アップルはアイフォーン搭載でおなじみの「Siri(シリ)」だ。

世界のIT大手は、こぞってAIスピーカーの新製品を投入している。そのなかで、2014年にアレクサを搭載したアマゾンエコーを発売して以来、独走を続けるのがアマゾン。米調査会社eマーケターによると、17年の米国におけるシェアは70.6%。2番手は「グーグルホーム」を16年11月に発売して猛追するグーグルで、23.8%のシェアを握る。

◇ネットの「主戦場」は指から声へ

パソコンやスマホでは基本的に文字で入力するが、AIスピーカーの場合は「声」。人間が話した言葉を音声アシスタントが認識し、反応する。「今日の天気は?」と聞けば天気を答える。自宅の家電がインターネットに接続されたスマート家電ならば、テレビやエアコン、照明や玄関ドアの施錠といった操作も声でできる。

最大手アマゾンの強さの一つは、「スキル」と呼ばれるアプリケーションの豊富さだ。スキルは、外部業者のサービスを利用する際に使うアプリ。例えば、「全国タクシー」のスキルを使えば声だけでタクシーを手配できる。宅配ピザのドミノ・ピザを注文したり、スターバックスに事前注文したりするスキルもある。

AIスピーカーで他社に先行したアマゾンはスキルのラインアップを早期に充実させ、使い勝手で抜きんでた存在になった。14年の発売当初、アマゾンエコーはアマゾンが用意する音声アプリを利用できるだけだったが、同社はスキルの音声アプリを作成するためのソフトウエア開発キットを15年6月に開放した。その結果、1年後にはスキルが約1000種となり、17年6月末には1万5000種を突破。18年5月時点では、4万種そろった。

いわゆる「スマホの次」をめぐる攻防は今に始まった話ではない。グーグルはメガネ型情報機器「グーグルグラス」を14年に発売し、アップルは15年4月に腕時計型情報機器「アップルウオッチ」を商品化した。だがグーグルグラスはカメラ機能がプライバシーを侵害する可能性があると問題視され、一般向け商品化を事実上断念。アップルウオッチは現在も販売中だが、他社が追随するほどのヒット商品には育っていない。

◇アマゾンは小売業の経験生かす

その中でAIスピーカーが頭一つ出てきたのは、スマートホーム(スマート家電)の機能を通じてユーザーの家に入り込み、使い勝手の良さを実感させたことが大きいだろう。アマゾンは小売業を通じて培ったメーカーとの関係を生かして、スマート家電といち早く連携できたことが、成功の一因と考えられる。

従来、電子機器と人間の接点(インターフェース)はパソコンのキーボードやマウスであり、スマホの登場でそれが指へと変わってきた。AIスピーカーの登場により、その接点が「声」に移る可能性が出てきたといえる。

この動きに最も関心を持っているのは検索大手のグーグルだろう。スマホやパソコン上の検索エンジン市場でグーグルにとって代わる企業はそう簡単に現れないが、インターフェースが指から声に移った時、グーグルはアマゾンに勝てない可能性がある。これはある意味で、プラットフォーマーの交代と言える。

アマゾンは音声広告の研究を進めているとの報道もある。18年5月には、企業などがアレクサを使ってマネタイズ(収益化)する仕組みを一般公開すると発表した。企業はアレクサ向けアプリを開発し、利用者に音声コンテンツを販売したり、課金サービスを提供したりできるようになる。

◇トヨタもアマゾン・アレクサを搭載へ

また、イベントのチケットなど物理的な商品も販売できるようになる。将来的に、AIスピーカー事業は、ハード(機器)の販売による売り上げよりも、ハードを通じたコンテンツの売り上げの方が大きくなるだろう。

AIスピーカーに搭載された音声アシスタント機能は、自動車への搭載も研究されている。トヨタ自動車は18年に一部車種にアマゾン・アレクサを搭載することを発表済みだ。その他の自動車メーカーもIT企業と協業を進めている。「声」のプラットフォームをめぐる競争は熾烈(しれつ)を極めることになりそうだ。

Intelは米国時間5月16日、「OpenVINO」(Open Visual Inference & Neural network Optimization)を発表した。OpenVINOは、エッジにおける視覚アプリケーションでコンピュータビジョンやディープラーニング(DL)推論を容易に実現するためのツールキットだ。

同ツールキットを使うことにより、開発者はクラウド上で(「TensorFlow」や「Apache MXNet」「Caffe」といった一般的なフレームワークを用いて)AIモデルを構築、訓練し、さまざまな製品に配備できるようになる。OpenVINOは、グラフィックス機能を統合した同社のCPUや、FPGA(Field Programmable Gate Array)、視覚処理ユニット(VPU)「Movidius」といった、人工知能(AI)分野向けのさまざまなアクセラレータ技術に対する投資の成果となっている。

Intelでコンピュータビジョンおよびデジタル監視の責任者を務めるAdam Burns氏は米ZDNetに対して、「インテリジェンスのためのアーキテクチャは複数存在している」と述べた。

OpenVINOによって、一連の最適化能力とランタイムエンジンが提供されるため、開発者は高度なチューニングを施したFPGAであるか、高効率なVPUであるか、その他の選択肢であるかにかかわらず、自らのニーズに合致する最適なアーキテクチャ上でモデルを処理できるようになる。小売り分野を例にとると、開発者は販売時点情報管理(POS)などのさまざまなエッジアプリケーションや、デジタルサイネージ、セキュリティカメラなどでコンピュータビジョン能力を活用したいと考えるかもしれない。

Intelによると、IoT市場は世界的に飛躍的な成長を遂げており、その理由としてAIを活用した視覚アプリケーションの著しい増加が挙げられるという。Burns氏は、企業がエッジにおけるインテリジェンスを必要としている理由にはさまざまなものがあると述べ、その例として、長期的に格納するデータの量を減らしたいという要望や、帯域幅の制約に関するニーズ、収集したデータに基づいて迅速な意思決定を下す必要性といったものを挙げた。なお、Intelの2018会計年度第1四半期におけるIoTグループの売上高は、前年同期比17%増の8億4000万ドルとなっている。

Burns氏によると、OpenVINOは産業分野や小売り分野、エネルギー関連分野、医療分野を含む幅広い市場での応用が期待できるという。OpenVINOは既にさまざまなユースケースで利用されている。例を挙げると、Dahua Technologyがスマートシティと交通管制のソリューションで、GE Healthcareが医療画像分野で活用している。また、Agent Video Intelligence(Agent Vi)やDell Technologies、Honeywellといった企業も利用している。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

一般社団法人 JPCERT コーディネーションセンター(JPCERT/CC)は5月15日、「Adobe Reader および Acrobat の脆弱性(APSB18-09)に関する注意喚起」を発表した。独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)も、「Adobe Acrobat および Reader の脆弱性対策について(APSB18-09)(CVE-2018-4990等)」を発表している。これはアドビ社の発表を受けたもの。

対象となるのは、Windows版およびMacintosh版の「Acrobat Reader DC Consumer(2018.011.20038)およびそれ以前」「Acrobat Reader DC Classic(2015.006.30417)およびそれ以前」「Acrobat DC Consumer(2018.011.20038)およびそれ以前」「Acrobat DC Classic(2015.006.30417)およびそれ以前」「Acrobat Reader 2017(2017.011.30079)およびそれ以前」「Acrobat 2017(2017.011.30079)およびそれ以前」。

該当バージョンのAdobe ReaderおよびAcrobatには複数の脆弱性が存在し、これらの脆弱性を悪用したコンテンツをユーザが開いた場合、Adobe ReaderやAcrobatを不正終了されたり、任意のコードを実行される可能性がある。

金融市場で最も活発な取引の一つが報われつつある。

バンク・オブ・アメリカ(BofA)メリルリンチ・グローバル・リサーチがファンドマネジャーを対象に4-10日に実施した調査によると、今月に入り投資家は米国債のショート(売り持ち)構築に動き、金融市場で2番目に人気の取引となっている。この取引は15日、10年債相場が下げ幅を広げ、利回りが2011年以来の高水準に達したことで実を結んだ。

BofAメリルリンチのチーフ投資ストラテジスト、マイケル・ハートネット氏は「米国債のショートが一段と激しくなっている」と述べた上で、「10年債利回りがついに3%を突破する中、投資家はポジションを減らすよりもさらに増やす可能性の方が高い」との見方を示した。

この調査は金融機関178社が対象で、資産の合計は5250億ドル(約57兆9000億円)。市場で最も人気の取引は4カ月連続でFAANG-BAT株の買いで、この銘柄グループには米テクノロジー大手のフェイスブック、アマゾン・ドット・コム、アップル、ネットフリックス、グーグル親会社のアルファベット、中国の百度(バイドゥ)、アリババ・グループ・ホールディング、テンセント・ホールディングス(騰訊)が含まれる。ドル下落を見込む取引は3番目に活発だった。

日商エレクトロニクス株式会社(日商エレ)は5月14日、個人情報などのセンシティブなデータを扱う金融機関などに向けた「セキュアクラウドVDIソリューション」の提供を、同日より開始したと発表した。同ソリューションは、「VMware Horizon Cloud on Microsoft Azure」(Horizon Cloud on Azure)と、閉域網を活用したリモートアクセスサービスを組み合わせたもの。

同ソリューションは、Microsoft Azureを基盤としたソリューションを強化するもので、第1弾はAzureに展開されるHorizon Cloud on Azure、インターネットを使用せずにAzureに接続できるエッジデバイス向けのAzure閉域SIMサービス、Azureと企業間をダイレクトに接続するAzure ExpressRoute、「クラウドインテグレーションサービス」で構成され、ワンストップで提供する。

クラウドインテグレーションサービスは、アセスメントサービス、Horizon Cloud on Azure + Azure ExpressRouteフィジビリティスタディサービス、Azureネットワーク導入サービス、セキュアクラウドVDI導入サービス、カスタマーサクセスサービスを提供する。

電子メールの暗号化に広く使われている「PGP」「S/MIME」の両規格に、暗号化されたメッセージを攻撃者が平文で入手できてしまう脆弱性が報告された。米電子フロンティア財団は当面の対策として、電子メールクライアントのPGPを無効にし、別の手段に切り替えるよう勧告している。

脆弱性はドイツのミュンスター応用科学大学などの研究チームが発見し、「EFAIL」と命名。2018年5月13日から14日にかけて技術論文などを公開した。

電子フロンティア財団の発表やEFAIL解説サイトによると、EFAIL攻撃ではHTMLメールなどのコンテンツを悪用する手口で平文が抽出される恐れがある。攻撃の前提として、攻撃者はまずネットワークトラフィックの盗聴や電子メールアカウントのハッキングといった手口を通じ、狙った相手の暗号化されたメールを入手しておく必要がある。

その後、脆弱性を突いて入手したメールに手を加え、被害者の電子メールクライアントに送信する手口で、メールの内容を復号させ、被害者に知られることなく平文を入手することができてしまうという。

この脆弱性は、Microsoft Outlookなど多数のクライアントが影響を受ける。研究チームが行ったテストでは、S/MIME電子メールクライアント35本のうちの25本、OpenPGP電子メールクライアントでは28本中10本に脆弱性が存在していることが判明。中でもApple Mail、iOS Mail、Mozilla Thunderbirdでは、暗号化されたメールの平文を直接的に抽出される恐れがあり、特に危険が大きいとしている。

研究チームによると、今回の脆弱性は、ジャーナリストや政治活動家、告発者といった敵対的環境にあるユーザーを危険にさらしかねず、国家が関与する攻撃などに利用される恐れもある。

メーカー各社には、2017年10月から2018年3月にかけて連絡を取っているという。しかし「それぞれのベンダーが打ち出す対策によって、攻撃を防止できるかもしれないし、できないかもしれない。従って長期的には規格を更新して、この脆弱性の根本的な原因を修正する必要がある」と研究チームは解説する。

短期的な緩和策としては、メールの復号を電子メールクライアントで行わず、クライアント外の別のアプリケーションで行うことや、HTMLを無効にすることなどを挙げている。

マクニカネットワークスと協和エクシオは2018年4月24日、N3Nが提供する遠隔監視システム「RCV(Remote Control & Visibility) for factory」の販売において協業を開始すると発表した。工場などの産業用システムに実績がある協和エクシオがシステム構築、工事、保守を行い、N3Nの日本国内代理店であるマクニカネットワークスがRCVのライセンス提供を行う。

N3NのRCVは、同社の可視化プラットフォームIoT(モノのインターネット) Editor「WIZEYE」とリモートデスクトップシステム(RDS)で構成される。WIZEYEは、企業内のさまざまな定型・非定型の異種データを統合・階層化してリアルタイムに可視化し、1つのプラットフォーム上での分析を可能にするソフトウェアだ。

RDSは、PCにDVI接続するだけで、既存システムに影響を与えずにPC画面のキャプチャーと遠隔地への送信ができ、同時に遠隔地からのPCの制御も可能にするハードウェアだ。

クローズドネットワークでの運用が多い工場などの分散制御システム(DCS)は、トラブルなどの際の本社とのデータ共有が困難だったが、RCVの利用により複数拠点との情報共有が可能になる。

RCVは既存のDCSを変更することなく導入できるため、DCSのメーカーを問わず画面の転送、遠隔監視が可能になる。DCSの操作もキーボード、マウスで行え、DCS画面に加えて、監視カメラの映像を1つの画面でまとめて閲覧できる。さらに、複数拠点のDCS画面、監視カメラ映像を本社などでまとめて管理可能できる。

導入対象となるのは、自動車工場、食品工場、電子機器工場、化学プラント、焼却施設、処理施設、倉庫、その他インフラ設備監視など。同年5月1日より提供を開始した。

ITを駆使し、既存の金融領域に新たな付加価値やビジネスモデルを生み出す「FinTech」。ベンチャーはもちろんのこと、メガバンクも生き残りをかけた変化を求められている。数年後には銀行は必要なくなるのではないか――。そんな危機感を抱く人もいるものの、変化というのは簡単なものではない。

「これまで銀行で働いてきた人は、銀行法を始めとするさまざまなルールの下で動くのが大前提。新しいことをやろうとすると『ルールから外れるのでできない』と、二の足を踏むようなことになりがちです。でも、今はルール自体が大きく変わろうとしている時代。その変化を先読みしてビジネスを作っていくことが重要なんです」

そう語るのは、みずほフィナンシャルグループのデジタルイノベーション部でシニアデジタルストラテジストを務める大久保光伸さんだ。

同社は、中期経営計画(2016~2018年度)で「金融イノベーションへの積極的取り組み」という基本方針と「FinTechへの対応」という戦略を掲げている。最近では、ソフトバンクと共同でビッグデータとAIを使った個人向け融資サービス「J.Score」を開始したり、ベンチャーキャピタルのWiLと新たな事業創出を目的とする株式会社「Blue Lab」を設立したりするなど、従来の銀行の枠を超えた動きが目立つ。

こうした動きをけん引するのが、大久保さんが所属するデジタルイノベーション部だ。規制産業の大企業で新しいことに挑み、成功するためには、何が必要なのだろうか。

●スタートアップ文化に合わせ「スーツ着用」ルールを変更?

大久保さんが普段働いているのは、同社のオフィスではなく、FinTechに関わるスタートアップや大手企業が集まる「The FinTech Center of Tokyo, FINOLAB」(以下「FINOLAB」)だ。デジタルイノベーション部は、ここにAPIによるオープンイノベーションを目的としたラボ「Mizuho.io」を設置している。

銀行の中ではなく、社外の施設に入居していることの利点として、大久保さんは社内外の人たちとのコミュニケーションの取りやすさと“スピード感”を挙げる。

「みずほのグループ内においても『先端技術の切り口で何かできることは?』と聞きに来たり、『デジタル系の人材をどうやって育てればいいか?』という話をしに来たり、そういうことが日常茶飯事です。

そこで『社外の有識者の意見を聞きましょう』と、例えば東急ハンズの長谷川さんに『ヒアリングさせてください』とメッセージを送ったらすぐに『今から?』と返ってきたこともあります。その早さに社内の人たちはびっくりですよ。銀行の中だと関係各部との調整から始まり、日程の候補を出し合って、3回くらいメールをやりとりしないと決まらないことも多いですからね」(大久保さん)

デジタルイノベーション部は、経営計画の戦略に基づき、FinTech関連ビジネスを立ち上げる「実行部隊」として、スタートアップなど社外のプレイヤーとの連携を進めると同時に、社内の風土を変えるという目標も持っている。その風土改革の1つとして最初に取り組んだのが、服装についての社内規定を変えることだったそうだ。

「ほとんどの銀行には、業務中の服装について『ビジネスにふさわしいスーツを着用すること』といった規定があるのですが、FINOLABのような場所でスタートアップの方たちと話をしようと思うと、スーツではかえってTPOに合わないんですよ。だから『ビジネスカジュアルOK』に変えてもらいました。

最初は違和感を覚えた人もいたかもしれませんが、きちんと手続きを踏んでルールを変えた上で、新しいビジネスも生み出すようになって、社内でも徐々に認められるようになってきたと感じています」(大久保さん)

●“カニバリ”や煩雑な手続きに足を引っ張られない、独立組織のスピード感

2017年に設立したBlue Labは、デジタルイノベーション部のメンバーが兼務し、大久保さんはCTOを担っている。こちらはWiLとみずほの他に複数社が出資しており、場所だけではなく、組織的にも、みずほフィナンシャルグループから独立した形で運営している会社だ。そのため、スピーディに判断して、プロジェクトを進めることができるほか、いわゆるカニバリゼーションを気にせずに、さまざまな挑戦ができるという。

「今、異業種との連携で新しいサービスを生み出すプロジェクトが並行していくつも動いています。新しいことを10個試して、そのうち1つでも自社に持って帰れればいい――そんなスタンスですね。銀行の中で進める場合、似たようなプロジェクトが既にあれば、そちらが優先されてしまうので、10個試すこともできない。そもそも、打席にすら立てないわけです。

また、うまくいきそうな1個をビジネス化するとなったら、さまざまな手続きを踏む必要があるでしょう。しかし、それも別会社であれば圧倒的に早いです。予算の申請にしても、銀行では稟議(りんぎ)書を書いて、担当者と調整している間に2週間ほどたってしまうような話が、社長にメールで申請して、OKをもらえればすぐに進められますし」(大久保さん)

●企業の「イノベーション室」がうまく機能するには?

ここ数年、多くの大企業が“イノベーション”を掲げてプロジェクトや部署を立ち上げているものの、なかなか成果が出ずに行き詰まっているという話も少なくない。大久保さん自身も、他の大企業から相談されることがあるそうだが、うまくいかないところは総じて、「活動の目的がはっきりしていない」ケースが多いという。

「新しいサービスがどんどん出てくる中で、金融機関は『自分たちがなくなってしまうんじゃないか』という危機感をもってオープンイノベーションを進めようとしています。しかし、会社によっては『AIを使ったプロジェクトを作れと上から言われた』とか『ブロックチェーンで何かやりたいんですけど』といったように、手段が目的化しているところもあります。それでは何も生まれないでしょう」(大久保さん)

技術そのものを追いかけるのではなく、技術を使って新たなビジネスを作ること――これが大久保さんたちの目的だ。それに基づいた形でKPIも整理されている。新たな市場の創出やユーザー部門への案件提供、取り組みを通じた全社のコストカット、同社のプレゼンス向上など、投資部門らしい項目が並ぶ。具体的な数字を並べれば、メンバーの動きが縛られてしまうし、抽象度が高すぎると方向性を見失う。このバランスが大事なのだ。

目的を達成するために、大久保さんたちが使うリソースは社外だけではない。世の中では「FinTech」というキーワードがもてはやされてはいるものの、それで何ができるのかをイメージできている人はまだ少ないのが実情だ。そこで役に立つのが、みずほの「産業調査部」の情報だという。

同部は日本の各産業についてその動向を調査、分析し、今後の見通しを立てている。そこから、将来のニーズやFinTechの生かしどころを洗い出し、各方面に提案することができるというわけだ。

2017年に業務提携をしたAirbnbのような異業種はもちろん、ライバル銀行と手を組むのもタブーではない。他の銀行でも使える仕組みを作れば、顧客の利便性につながるし、単独で開発、運用するよりもコストを削減できる。そのため、自分たちが考えたFinTechのビジネスモデルのアイデアなども、競争優位性の根幹部分ではないと捉え、オープンにして外部に積極的に発信しているという。

●数々の企業を渡り歩いた「よそ者」が会社を変える

社内外にさまざまなつながりを持ち、数多くのプロジェクトを進める大久保さんは、みずほにとっては「よそ者」といえる存在だ。

20歳の頃に留学先の米国で起業し、PayPalなどの新しいサービスにもいち早く触れた。その経験から、帰国後は日本の金融業界でITと英語を武器に勝負していくことを決めたという。その後は、独立系SIerでメガバンクのシステム企画、開発、運用に関わった後、ネットバンクでは、日本の銀行で初めてAWSの導入を果たし、2016年4月にみずほに入社した。

みずほ銀行では、立ち上がったばかりのデジタルイノベーション部に所属。当時4人だけのプロジェクトチームで、初めての中途人材だったという。デジタルイノベーション部は、その後2年で兼務や出向者も含めて100人規模の組織に成長した。

大久保さんの今の仕事には、プライベートな立場やこれまで培ってきた人脈も大いに生きている。例えば、自社の役員や省庁のキーパーソンに直接話を持ちかけたいときは、前職時代に参加した、各社のCIOレベルのコミュニティーでのつながりがきっかけになることが多かったという。

また、2016年にはFinTech関連の有識者と共に、一般社団法人金融革新同友会「FINOVATORS」を立ち上げたが、これが“みずほの人“として動くのが難しいような活動も可能にしている。例えば、FINOLABやFINOVATORSが行う勉強会やイベントであれば、競合といわれるような銀行の担当者たちも一堂に会することができる。法制度の改正などを行政機関などに働きかける際も、この非営利組織の立場が役に立つ。

自社だけではなく、社会全体に役立つことを――。さまざまな企業を渡り歩いてきた大久保さんだが、どんな組織にいてもこの信念を貫いてきた。この利他的なスタンスが、多くの人とつながり、そして多くの人をつなげているのだろう。オープンイノベーションというのは、まさにこういった姿勢のことを指すのではないか。

そんな大久保さんの夢は「日本を金融で世界一の国にすること」。そのためにできることは何でもしたいと話す。企業の枠やルールにとらわれずに行動できる人材と、それを事業戦略としてサポートできる企業。規制に負けずに、変革を起こすためのパワーはこういうところにあるのだろう。大久保さんの夢はまだ始まったばかりだ。